楽園の瑕(1994年、香港)

原題:東邪西毒/英題:Ashes of Time  © Scholor Films Co., Ltd.

ウォン・カーウァイ監督「楽園の瑕」金庸の著名な小説をもとに時間・愛・記憶をテーマにした、カタストローフに充ちた時代劇。恋情だけで人を切り倒す剣士たちのチャンバラや秘技も見物だが、ナレーションやキャストたちの独白シーンがとても引き締まっていて散文的に仕上がっている。

キャスト

みどころ

楽園の瑕/レスリー・チャンウォン・カーウァイ唯一の武侠映画で、複数のエピソードそれぞれを独自に展開させながらナレーションで強引にまとめ上げる手法が際だっている。作品全体としての評価は、本来の時代劇というべき全ての被写体を風景として溶かし込んだ撮影にある。それは男性キャストの肌の色を土の色に重ね合わせた点に象徴的だ。そして、この作品でも全てのキャストが持ち前の良さを引き出すだけでなく、洪七演じるジャッキー・チャン(張学友)を代表として、他監督の作品で作られてきた印象とは違う角度で俳優たちを照らし出すことにも成功している。

楽園の瑕/レオン・カーファイこの作品の人間関係やストーリーの難しさに関わるが、登場人物の誰もが恋愛中毒で(人間全てそうなのだが)一人一人対処の仕方が異なっている。この違いも『楽園の瑕』の醍醐味の一つで、最も印象的なのは男装をしている慕容嫣(ブリジット・リン演)に気づかない黃藥師(レオン・カーファイ演)が「君は美男子だから、妹はきっと綺麗だろう。妹と結婚したい」と言ったものだから、彼女は(本当は存在しない)妹になりすまして、毎日毎日男が家に来るのを待ち、挙げ句の果てには二重人格になって発狂している。

楽園の瑕/ブリジット・リン楽園の瑕/ブリジット・リン仏典曰く 旗なびかず 風なし 揺らぐは人の心なり

いずれにせよ、登場人物が滲みだしている「ひたむきな感じ」がとてもよく伝わる作品で、恋愛を軸に見た精神分析的な問題提起といった深刻な問題が出てくる一方で、爽やかな雰囲気を体感できる。

本作品では、歐陽峰=西毒を演じるレスリー・チャン(張國榮)の腹の底から聞こえてくるナレーションがオススメ。歐陽峰自身は、自分の住処にやって来る連中の相手をするだけで、ほとんど会話主体の演技になっており、レスリー・チャンは3つ程度の表情を取るに過ぎないが、それが彼らしく淡々としている点、絶妙である。楽園の瑕/トニー・レオンまた黃藥師=東邪役のレオン・カーファイ(梁家輝)の力強さも捨てがたい。レスリー・チャンは数少ない表情と演技でナレーションを中心にした役割を徹底して担わされいたが、作品の最後になると、レオン・カーファイがナレーションを引き受け、歐陽峰の晩年を懐古的に話すようになる。絶対的な主役と思われた歐陽峰を黃藥師がフォローした形で主役が逆転するといえばいいのか、歐陽峰の立場が一気に相対化される展開は、ウォン・カーウァイの才腕に脱帽ものである。また、目で語ることのできる俳優とウォン・カーウァイが賞賛するトニー・レオンに対しては、あえて「盲目の剣士」という役柄を割り当て、音を深く聞こうとする剣士の目に焦点を当てている点も見事。

楽園の瑕/ブリジット・リンなお、慕容嫣・慕容燕という二重人格上の兄妹を二役務めたブリジット・リン(林青霞)の美貌が強烈で、秘技ともども楽しませてくれる。ちなみに妹の慕容燕は、二重人格のまま独狐求敗という女剣士へとこの作品で変貌し、原作『射雕英雄伝』の著者、金庸の別小説『笑傲江湖』では東方不敗となって大暴れする(スウォーズマン-女神伝説の章として映画化)。

舞台裏

受賞

以上、1994年。

以上、1995年。

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