2046(2004年、香港・中国・フランス・ドイツ・日本)

原題:2046/英題:2046 © Block 2 Pictures Inc.

ウォン・カーウァイ監督「2046」官能的な映像美と現実感覚を呼び覚ます音とが共鳴する長編ラブロマンス。ゆったりした場面展開と中華圏映画のトップスターたちによる重層化された恋物語のなかで、時間・愛・記憶の関係が繰り返し問われる哲学的にも重要な作品。

キャスト

みどころ

2046:コン・リーとトニー・レオンウォン・カーウァイ監督作品の8作目にあたる『2046』は1960年代後半の香港が舞台である。冒頭の劇中劇が終わると唐突に出てくる言葉「すべての記憶は涙で濡れている」が示すように、この作品はチャウ・モウワンという作家が過去に恋したスー・リーチェンという女性を忘れることができないまま、新たに出会った数名の女性から愛と時間と記憶の問題を学び取っていく物語だ。問題の答は、4名の女性との関係だけでなく、劇中劇の近未来小説『2046』でも展開されている。

この作品の醍醐味は、絶妙に配置された音と音楽も含め、広い意味での映像美にある。キャスト撮影の角度、照射時間、いくつかの背景の配色などがやや官能的になっており、普段は見過ごしやすい室内の壁や机の上、時間と記憶が刻み込まれた古い石壁、降りしきる雨に濡れた街灯などがクローズアップされる。そのうえ、部屋の隅に無造作に投げ出された上着やパンティーストッキングも含め、壁、机、街灯などの一つ一つのものが固有の匂いを放っている映し出されている。このような映像美は、一見フェティシズム的なもののようにみえるが、拡大された部分的なものに物語を注ぎ込む『2046』のスタンスは、有機的なものから部分的なものを切り取るフェティシズムと丁度逆の立場にあると観るべきだ。

2046/チャン・ツーイーとトニー・レオンまた『欲望の翼』や『楽園の瑕』と同じく、『2046』には豪華キャストがたくさん出演しているので、これまでの作品や他監督の作品をも参照しながら観ていくのも楽しみ方の一つ。トニー・レオンをはじめ、マギー・チャンカリーナ・ラウフェイ・ウォンチャン・チェンは、ウォン・カーウァイのこれまでの監督作品をさまざまに彩色してきたし、中国語圏の映画俳優として定評のある人たちばかり。さらに作曲家ペール・ラーベンの協力を得て、作品に流れる音楽が女優ごとにはめ込まれている。コン・リーには登場場面でブルースを挿入し、チャン・ツーイーには60年代のダンス・ミュージック、コニー・フランシスの「シボネー」が用意されていた。また、クラシック・オペラとシークレット・ガーデンの「アダージョ」の2曲は、あの幼気でか細い肩が印象的なフェイ・ウォンに向けられている。

なお、考え過ぎの余談だが、チャン・イーモウの前愛人のチャン・ツーイーと元愛人のコン・リーを共演させたのは、ウォンならではの遊び感覚だと思える。コン・リー扮するスー・リーチェンは『恋する惑星』と『楽園の瑕』に出演したブリジット・リン(林青霞)でも演技可能だと思われるから、余計に勘ぐりたくなる。

舞台裏

チャン・ツーイーの起用

チャン・ツーイー秘密裏に5年の歳月をかけ完成したといわれる『2046』。当然だが、クランクイン当初から撮影に臨んだトニー・レオンは完成時点で5年の歳を重ね、やや顔つきも変化した。この年月の経過をウォン・カーウァイ自身は映画の成長に準えて肯定的に自己評価してる。キャストと作品のいずれもが、5年という歳月を孕むことで完成度を高めたというわけだ。また、新人の部類に入るチャン・ツーイーを起用したことも話題になったが、彼女の場合の撮影期間は約1年。撮影中は作品が一体どのようなものになるのかサッパリ分からなかったそうだが、完成品を観た後に、自分の映像がふんだんに使われているだけでなく、自分では考えられなかったような出来映えに編集されていて非常に満足していると語っていた。

ウォンの脚本とフェイ・ウォン

2046/フェイ・ウォンすべての作品で脚本がないといわれるウォン・カーウァイだが、脚本家出身の彼が脚本自体を無視するとは考えにくい。実際、彼はすべての作品で脚本を用意していると明言しているし、また、撮影の中でペースメーカーとして利用しているとも語っている。ただ、撮影期間が伸びがちなウォンの場合、キャストやスタッフの諸事情が目まぐるしく変わったり、予想以上の展開を思いついたりするので、脚本を逸脱することが多いというのが内情だそうだ。『2046』の出演者の中で、脚本の逸脱という点で最も自分の演技に忠実であり得たのは、撮影中以外は一切練習をせず全てアドリブで対応したというフェイ・ウォンだろう。

受賞

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メモ日本語版よりも作品としての独立性が高い。トニー・レオン扮するチャウ・モウワンは、映画のなかで独り言ともナレーションとも取れる台詞を場面ごとに話すが、この写真集では、その台詞の一つ一つが写真1枚ごとに(黒字の本のページの端に、灰色の文字と小さなフォントで控えめに)添えられている。日本版の写真集がマガジンハウス編集に対し、台湾版のこの写真集は王家衛が著者の一人に数えられているのが頷ける。キャストの関係図や以前の作品との相関関係が紹介されていたり、ウォン・カーウァイ自身による解説が付されていたりと、オススメ。

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